* まえがき *（菅原実事務局長…当時）
今月号から三回にわたって、三月一日の月例法座において、主管先生が御解説下されたところの、新池御書(にいけごしよ)…日蓮聖人が、在家の弟子、新池左衛門尉(遠州浜名郡新池の邑主で鎌倉幕府の直参)に、お手紙としてお出しになられたもの…を連載いたします。
日蓮聖人の御遺文(御書)は、ともすると、日蓮宗と日蓮正宗創価学会が独占するもののように考えられがちでありますが、そうではありません。御聖人は御自ら「日蓮は法華経の行者なり」、更にまた「一宗一派の開祖にもあらず」とも仰せられております。
このように日蓮聖人は、法華経（御聖人の法華経の受持ちは、十巻三十二品の内、八巻二十八品、即ち無量義経・観普賢経を除く、妙法蓮華経だけであります）の実践者・体験者、即ち行者であられ、御遺文からなるたくさんの教学は、天台大師の教学をそのまま用いられたのであります。このことは、私の私見ではなく御遺文のいたるところにおいて、御自らお認めになられておられるのであります。でありますから、我等が恩師、主管先生は、日蓮の教学即ち天台の教学は、そのまま用いてもよろしいと仰せられております。
そうしてこの御書と御解説は、法華経にもとづく、日蓮聖人と主管先生との、御自らなる実践による体験と身読でありますから、私達はこの大生命にふれて行かなければなりません。
* 信仰は信・行と生活上の実践が主 *
現代は教があって行がない時であります。私達はあくまでも、信と、行と、生活上の実践が主であります。そして、教は従であることに特に留意して、この御書と御解説を拝見し、身読させて頂かねばなりません。
つぎにこの御解説は、行学ともに至らない私の筆記でありますので、誤り伝へるおそれが多分にありますから、諸賢の御叱責と御指導を頂ければ幸と存じ上げます。
では御遣文の本文と、次に、主管先生の御解説の要旨を述べさせて頂きます。（合 掌）
* 本 文 *
嬉しきかな、末法流布に生れ値へる我等。悲しきかな、今度此の経を信ぜざる人人。抑々人界に生を受くるもの、誰か無常を免れん。さあらんに取っては、何ぞ後世の勤めを致さざらんや。倩倩、世間の體を観ずれば、人皆口には此の経を信じ、手には経巻を握ると雖も、経の心に背く間悪道を免れ難し。
譬へば人に皆五臓あり、一臓も損すれば其の臓より病出で来て余の臓を破り、終に命を失ふが如し。爰を以て伝教大師は、
「法華経を賛すといえども、還って法華の心を死す」等云云。文の心は、法華経を持ち読み奉り讃むれども、法華の心に背きぬれば、還って釈尊十方の諸仏を殺すに成んぬと申す意なり。
縦ひ世間の悪業衆罪は須彌の如くなれども、この経に値ひ奉りぬれば、諸罪は霜露の如くに、法華経の日輪に値ひ奉りて消ゆべし。然れどもこの経の十四誹謗の中に、一も二も犯しぬれば其の罪消え難し。所以は何ん、一大三千界のあらゆる有情を殺したりとも、争か一仏を殺す罪に及ばんや。法華の心に背きぬれば、十方の仏の命を失ふ罪なり。此のおきてに背くを謗法の者とは申すなり。
地獄怖るべし、炎を以って家とす。餓鬼悲むべし、飢渇に飢ゑて子を食ふ。修羅は闘諍なり。畜生は残害とて互に殺し合ふ。
紅蓮地獄と申すは、紅のはちすと読む。其の故は餘りに寒さに詰められてこごむ間、背中われて肉の出でたるが紅の蓮に似たるなり。況や大紅蓮をや。かかる悪所に行けば、王位・将軍も物ならず。獄卒の呵責に値へる姿は、猿を舞はすに異ならず。此の時は争か名聞名利我慢、偏執あるべきや。
* 『嬉しきかな、末法流布に生れ会へるわれら』…法華経にめぐり会えた喜び *
* 御 解 説 *
この御書は、今から約七年前に、みな様に「タイプ」してお上げしたものであるが、もう一ペン読んであげよう。読んでわからないところは、説明しながらいきましょう。
これは日蓮聖人の書いたもので、『新池御書』(にいけごしょ)といって、新池という人に出した「お手紙」だが、今もこの道理は一つも変わりはない。
『嬉しきかな、末法流布に生れ会へるわれら』…流布とは、広宣流布のことをいう。皆さんが宣布といい、導きといって努力していることをいうのだよ。法華経にめぐり会えた喜び、仏様によって流布、即ち広宣流布の時に会えた心そこからの喜び…嬉しきかなといっておられるのだよ。
『此の経』…とは、法華経のこと。法華経といっても、日蓮聖人は、八巻二十八品、大導師様は、十巻三十二品、そこが七百年前の時代と今の時代が違うほどに異なるところだよ。世間の者が法華経法華経といい、日蓮聖人がいわれているものは八巻二十八品。われら、先祖
養道の御始祖であられる、常不軽様のおおせられる法華経というものは、この二巻…無量義経一巻三品・行法経一巻一品…がくわわって、十巻三十二品。これを峻別して、知っておかなければならない。だから八巻二十八品は…南無妙法蓮華経。十巻三十二品は…南無先祖養道。ここが大きく違う。嬉しきかな、末法流布に生れあへるわれ等……。* 三十二とは正しく完全なことを象徴…法華経は十巻三十二品で完結 *
法華経二十八品…つまりたりない教えなんだね。その法華経、それでさえ嬉しいんだというのだな。それを我々の時代に読みかえて見比べてみると、「嬉しきかな、末法流布に生れ会へる我等」は、十巻三十二品、一切が揃ったものである。三十二ということは十六が二つ、十六とは世の中の正しい姿を象徴する数、菊花の御紋章のように。十六とは八ツがニツ、八方うまくいったなどとよくいう。四ツとは四海波おだやか、などとお目出度い時にいわれる。二とは配偶、偶数、偶然、などとピッタリ合った。割切れる。たまたまピッタリ合った。このように正しく完全なことを象徴しているのである。魂もあれぱ肉体もある。心もあればチャンと形もある。こういう花や果実は生命もあれば形もある。これを三十二相八十種好という。だから無量義経には、「天厨・天鉢器・天百味、色を見香を聞ぐに自然に飽足す」というでしょう。
（三十二ということは、正しく完全なことを象徴しているのである。）
八巻の八は、月たらずだから、たりないでしょう。十巻と三十二とは、これは三十二相をそなえている。いわば人間なりに三十二相をそなえていなければならない。欠けていては駄目だね。欠けた、月たらずの、いわぱ萬月に日たらずの欠けた月にさえも会えた嬉しさ。
してみると、三十二相ちゃんとそろったところの、大導師様だから、大聖人様とは申し上げない。大聖人を乗りこえた、その御方に従ってこそ、今日は救われるのである。
* その間何をやって過ごしていたのか *
『悲しきかな、今度此の経を信ぜざる人々』…人生の十年二十年はアッという間にたってしまう。その間何をやって過ごしていたのか。年老いてはなかなかできなくなる。およそ悲しいといっても、これほどの悲しさがあろうか。それに人人は、うかうかに、ただ目先だけの名利名聞を追って、人がこうするから自分もそうする。人が新しいハンドバックを手にすれば自分も持ちたがり、人が電気器具を買えば自分も無理してまでも買入れる。そして、知らず識らず、日々に地獄へ地獄へと向かって足を運んでいる。このことは、わしには良くわかるが、皆にはどんな悲しみが待ち受けているか。一寸先見えない、目くらだから。「悲しいかな……」
『そもそも人界に生を受くるもの、誰か無常をまぬがれん』…人は死んでも、おれは死なないということはない。親が生きているときは、なかなか信心は起きがたいものだよ。死ぬるということは、死んで何も無くなるということではなく、ただ変化するということだけなのだ。そして、大導師様を信じ法を信じて、死んで行くときは、人々におしまれながら行き、わが子なり、わが兄弟なりがそれによって、今度は信ずる。「嬉しきかな、末法流布に生まれあえるわれ等」が事実として、自分自身に読めることになるのだよ。管野を見れば良くわかるだろう。人は死ぬる時の相は、黒くなる人は地獄行きだよ。黄いろくなる人は、中有といって迷いのままにあの世へ行くんだよ。そして、一番近い自分の子孫に、いろいろな病気の本となって現れ、いろいろな心の病となって現れるのだ。つまり悪の因縁だな。あの管野のように、生きた姿で死ぬる人は、すぐ人間界に返って来る人なのだよ。そして、業の懴悔によって、病気もなく、立派な家庭に生まれて来るのだよ。
『さあらんに…』…そうであると決まったならば、どうして、今世と後の世の用意をせずにはいられないであろう。
『法華経を讃すといえども、かえって法華の心を死す』…南無妙法蓮華経といってはいるが、この大導師様のみ心にそわなければ、日蓮聖人のみ心にもそわない事にもなる。だからこの一月号の部報に書いて、その証拠を示してある。
* 今の時代に常不軽と生まれ、二巻を加えて完成…未来は不軽菩薩となるべし *
* 御 解 説 *
法華経とは、「三世諸仏の儀式」なのだよ。日蓮聖人は「未来は不軽菩薩となるべし」と明言しておられる。ということは、法華経二十八品では、末法萬年を救うに足らざるものだということなのだよ。つまり未完成なのだね。そこで、今の時代に、常不軽と生まれて二巻を加え、完成したところの法華経、今日を救うところのこの「本尊」となるのだよ。私はそう信ずる。そう信ずべき証拠が歴然としてある。
南無妙法蓮華経の足らざる本尊を、初めから足らないと承知しているなら、また、時機相応の上から計算して、足らないものと承知している御聖人の立場は別として、足らないにもかかわらず、足りたるものとして信じているその信心の仕方。気がつかないままに、これが本当だとするから、これこそ全く始末が悪く、罪深い。だから、朝夕のお勤めに「知らず識らずに犯したる罪とがは霜露の如くなさしめ給へ」と懴悔勧請を行ずる。皆、不知不識のうちに不幸がやってくる。これが恐ろしい。たとえば、夫婦の間で、その家庭に、妻が、実家の家風・生活様式をそのまま用い、自分勝手のやりかたで、つまり夫婦一体という完全なものでなく、いわば足らざるものをもってその家庭を左右すれば、夫の事業も、勤めも、子の教育も、親子の間も、皆んなこわれてしまうことになってしまう。「知らず識らずにおかしたる罪とが」となるわけだね。
* 目先の慾にとらわれてはいけない *
『法華経を持ち読み奉リ讃むれども、法華の心に背きぬれば、還って釈尊十方の諸仏を殺すになんぬと申す意なリ』…お釈迦様初め十方の仏様を殺す罪となる。これを簡単に聞いてはならない。あなたがたが人を殺せば殺人となり、殺人罪に問われ、死刑という罰にもなる。ここで特に申し上げておくが、人間を殺したのではなく、仏様を殺すことになるので、その罪は恐ろしいことになるのである。あなたがたは今、法華経十巻の嬉しき時代にめぐり会っていながら、あなた方の心にその励み勇みがない場合には、かえって、お釈迦様初め十方の仏様を殺したことと同じ罪になるのだよ。
これを出す御苦心というものは、容易なものではない。無量百千萬あそうぎこうのその昔より、御苦労なされて今ようやくこうやって出される。この時が来て、このようにすでにめぐり会いながらも、それがめぐり会ったことに気がつかずに、いくら説いても、目先の慾にとらわれて、やらないということは、実は仏様を殺す罪となるのである。ただの殺人罪ではない。それをよくよく心得ねばならない。
* 仏法によって永遠の生命、生活を！…わが眷属すべての者への幸福 *
仏法・法華経・信仰クソくらえならば、そういう人は間題外で、その人はそれで良かろうが、それでうまくやれると思うなら、うまくやって見せよ。そうでなく、仏法を信じ、仏法によって永遠の生命、永遠の生活というものを築き上げて行こうとする。今生きている現在の生活、彼の世への生活、また生まれ変わってくるつぎの世への生活、わが子、わが孫、わが眷族全ての者への幸福を考えていく者のやりかた、考えかたはそうではいけない。これを感じない者は、ただの殺人罪のみならず、仏様をも殺した罪となるのである。そして、この謗法の罪は、己れ自身にぜんぶかえるのである。
『須彌』…とは、釈迦時代、印度随一の山で、罪業の深さ大きさを、その山の高さ大きさにたとえたものである。
『有性』…とは、心あるもの。つまり生物。ここでは、世界中のいかなるものを殺しても、一仏を殺した罪には及ばない。これを法謗…謗法ともいうのである。
『地獄怖るべし…畜生は残害とて互に殺し合ふ』…餓鬼道に落ちればこんど彼の世にいて、この世のわが子を食う。「畜生は残害とて」…ちょうどアメリカとベトナムの戦争のように互に殺し合う。東洋的な考え方生き方は、たとえば、家業にたずさわる牛馬の肉は食べないとか、道義にかなわない殺りくはしない。そこに東洋と西洋の基本的な考え方生き方の相違点がある。だから、西洋かぶれの今の若い人たちが、ともすると、人を殺すことを平気でする。本当の
養道による、仏法の真髄による生活の仕方が、だんだんこの国になくなる。そして畜生の生活、残害（傷つけ殺すこと）の生活が、東洋的な邪教と、西洋的なキリスト教の美名にかくれてむしばんで行く。* 目先の慾にとらわれる恐ろしさが身にしみる *
『王位・将軍も物ならず。…名利我慢偏執あるべきや』…この法華経十巻にめぐり会わない人は、例え一国の王たりとも、大金持ちであろうとも、権力者であろうともそんなことはおかまいなしに、丁度、猿回しに引き回される猿と同じことになるのだよ。これを良く良く悟れば、何んと世間の目先の慾にとらわれる馬鹿馬鹿しさ恐しさが身にしみるということなのだよ。良い例が、北条一門は今日に至るも、その謗法罪を身におって生れてきているのだよ。その縁ある者もことごとくである。
時間がないので、肝心なところだけを説明して行きましょう。
* 始めより終わりまで信心を致すべし…さなくして後悔やあらんずらん *
* 本 文 *
思食すべし、法華経を知れる僧を、不思議の志にて一度も供養しなば、悪道に行くべからず。何に況や十度二十度、乃至五年十年、一期生の間供養せる功徳をば、仏の智慧にても知り難し。此の経の行者を一度供養する功徳は、釈迦仏を直ちに八十億劫が間、無量の宝を尽して供養せる功徳に百千萬億倍勝れたりと、仏は説かせ給ひて候ぞ。此の経に値ひたてまつりぬれば、悦び身に余り、左右の眼に涙浮びて釈尊の御恩報じ尽し難し。かように此の山まで度度の御供養は、法華経並びに釈迦尊の御恩を報じ給ふになるべく候。
かように此の山まで度度の御供養は、法華経並びに釈迦尊の御恩を報じ給ふになるべく候。彌々励ませ給へ、懈ることなかれ。皆人の此の経を信じ始むる時は、信心ある様に見え候が、中ほどは信心も弱く、僧をも恭敬せず、供養をもなさず、自慢して悪見をなす。これ恐るべし恐るべし。始めより終りまで彌々信心を致すべし。さなくして後悔やあらんずらん。譬へば鎌倉より京へは十二日の道なり。それを十一日余り歩を運びて、今一日になりて歩をさしおきては、何として都の月をば詠め候べき。何にとしても此の経の心を知れる僧に近づき、彌々法の道理を聴聞して信心の歩を運ぶべし。
* 御 解 説 *
『思食すべし……法華経並びに釈迦尊の御恩を報じ給ふになるべく候』…
法華経に従えば、そう願わなくも、幸せな今生・来生・後生がやってくるのだ。何んだってうまい調子にやってくる。だが、寝ていて待っていてもこなければ、果報だけ得ることに努力しても回っては来ない。そういうときは、努力すればするほど、反対の方向へ行ってしまうものだよ。することなすことチグハグだ。
決して、人間は、金や学問や才能のようなものでは幸せになるものではない。たしかに知識は大切で必要なものである。しかし、智慧の世界、つまり仏の世界では、知識だけでは、本当の知識として生きて行かないものだよ。人間の頭なんか、賢いといったところで、ドングリを立ちならべて見くらべているようなものなのだ。仏の智慧によらねばならない。そういうものですよ。
松島園のオバアチャン（教団にとって忘れてはならない功労者、今は故人）を見ると良くわかるだろう。年老いていながらも一人であれだけの大きな旅館を経営していても、何故か、皆んなわいわい集ってきてうまく行っている。そこが仏の智慧なのだよ。
* 仏の智慧による人間の幸せが生まれる *
とかく人間は、自分の罪業を計算しないで、外面しか見ないから、地獄・餓鬼・畜生の世界しか出てこない。自分の罪業を知って、その罪業に懴悔することによってこそ、仏の智慧による人間の幸せが、その時初めて生まれてくるのだ。その智慧を得てこそ、仏の御恩に報じ給うこととなり、又あなたがたが、この法座に来るということも、釈尊の御恩に報ずるということとなるのだよ。
『彌々励ませ給へ……供養もなさず、自慢して悪見をなす』……初めは一生懸命に信仰をやるが、そのうちに非難や、批判をするようになるものだ。
* 名聞名利の風はげしく、仏道修行の燈は消え易し…人と生まれて地獄の炎を忘れてしまう *
* 本 文 *
噫過ぎし方の程なきを以て知んぬ、我等が命今幾程もなき事を。春の朝に花を詠めし時、伴なひ遊びし人は、花と共に無常の嵐に散り果てて、名のみ残りて其の人は亡し。花は散りぬと雖も、又来ん春も発くべし。されども消えにし人は、亦いかならん世にか来るべき。秋の暮に月を詠めし時、戯れむつびし人も、月と共に有為の雲に入りて後、面影ばかり身に添ひて物いうことなし。月は西山に入ると雖も、亦来ん秋も詠むべし。然れども隠れし人は、今いずくにか住みぬらん、おぼつかなし。無常の虎の鳴く音は耳に近づくと雖も、聞いて驚くことなし。屠所の羊は、今幾日か無常の道を歩むらん。雪山の寒苦鳥は寒苦にせめられて、夜明けなば栖つくらんと鳴くと雖も、日出でぬれば朝日の暖かなるに眠り忘れて、又栖を作らずして、一生虚しく鳴く事を得。一切衆生も亦復是の如し。地獄に堕ちて炎に咽ぶ時は、願はくは今度人間に生まれて諸事を閣ひて三宝を供養し、後世菩提を助からんと願へども、たまたま人間に来る時は、名聞名利の風はげしく、仏道修行の燈は消え易し。無益の事には財宝を尽くすに惜しからず、仏法僧に少しの供養をなすには、是をものうく思ふ事これただごとにあらず、地獄の使のきをふものなり。寸善尺魔と申すは是なり。
* 尺善寸魔ならまだ助かる *
* 御 解 説 *
『無常の虎の鳴く音は耳に近づくといへども』…無常の虎ですよ。死ぬるということは、恐しいことなのだよ。
『屠所の羊』…屠殺場へ行く羊。われわれは屠殺場へ行く羊と同じなのだよ。毎日々々屠所へと歩んでいるのだよ。
『雪山の寒苦鳥は…無益の事には財宝を尽くすに惜しからず』…雪山という山の寒苦鳥。寒さに苦しむから寒苦鳥というんだね。人間の一生なんて短かいものなのだ。全くこの寒苦鳥と同じだね。苦しい時の神頼みで、楽になるとすぐ忘れてしまうものだね。名聞名利、つまり目先の慾につられて、一生得ることもなく、得たと思うとすぐ取られるのだね。それにもかかわらず、「会費百円です」「馬鹿々々しい」「そうレジャー何処へ行く、会費一萬円Ｏ・Ｋ」…皆んな心して聞いておきなさい。
『寸善尺魔』…尺が善で、寸が魔ならば、まだ助かる道がある。ここに、私の三十餘年の信仰体験からその一例をあげると、貧乏やる方なく、どうにもならない時、救われてどうにか楽になると、己れの力でなったようにうぬぼれて、自分のぜいたくには巨萬の金を使っても、少しもおしいとは思わないが、本営のために使う金は、すぐ文句が出てくる。そういう者はたちまちにヒックリ返ってしまう。寸善尺魔だから。
『新池御書』主管先生御解説（その二）（昭和41年5月1日発行『浄妙』第5号より）
* 寺や神社に神仏はおられず…私の言にあらず、経文にあり *
* 本 文 *
其の上此の国は謗法の土なれば、守護の善神は法味に飢ゑて、社を捨て天に上り給へば、悪鬼入り替わりて多くの人を悪道へ導き、仏陀は化を止めて寂光土へ帰り給へば、堂塔寺社は徒に魔縁の栖と成りぬ。国の費民の嘆きにて、瓦を並べたる計りなり。是私の言にあらず、経文にこれあり、習ふべし。諸仏も諸神も謗法の供養をば全く請取り給はず、況や人間としてこれを受くべきや。春日大明神の御託宣に云く、「飯に銅の炎をば食すとも、心穢れたる人の物を受けじ、座に銅の焔には座すとも、心汚れたる人の家には至らじ。草の廊(わたどの)、萱の軒には至るべしと。云云。縦令千日のしめを引くとも不信の所には至らじ。重服深厚の家なりとも、有信の所に至るべし」と云云。是の如く善神は此の謗法の国をば慨(なげ)きて、天に上らせ給ひて候。心穢れたると申すは、法華経を持たざる人の事なり。此の経の五の巻に見えたり。謗法の供養をば銅焔とこそ仰せられたれ。神だにも是の如し。況や我等凡夫として焔(ほのむら)をば食すべしや。人の子として我が親を殺したらん者の我に物を得させんに、是を取るべきや。いかなる智者聖人も無限地獄をば遁(のが)るべからず。与同罪恐るべし恐るべし。
* 仏や聖人の仰せを真正直に受ける *
* 御 解 説 *
『其の上此の国は謗法の土なれば……是私の言にあらず、経文にこれあリ、習ふべし』…この国には謗法の者が集っているから、神様仏様が守りきれないで、皆あの世に還(かえ)ってしまった。であるから、寺や社は全部悪魔の住家となってしまった。従って、これ等の寺や神社を造る国の費用と、その建造にたずさわった人々の苦労と汗油は全く無駄になってしまった。外見だけ立派に建っているが、その中には神仏様はおいでになってはおられないのだ。
今度、新聞を出す目的は、先づ創価学会を打倒するのが第一の目標。第二には、坊主という坊主は全部悪魔なのだからこれを除くこと。これは私の言葉ではなく、聖人の言葉であり、経文にこれあるのである。
それにもかかわらず今日の人々は、悪魔のとりこになっている坊主共から、大事な先祖の戒名を書いてもらって、それで先祖の成仏ができると思っている。少しは、仏の仰せ、聖人の仰せというものを真正直に受けて考えて見ることだ。それとも、そんなことを考えるよりも、自分の名利名聞を求める方が先なのか。自分の大事な大恩ある先祖が、そういう悪魔からつけてもらった戒名のために地獄に墜ちていても、子である自分は知らぬ、おれはおれだけの生活を立派にして行くのだ。このような人々は誤った生活の方式を自分の子供達にも教へ込んでいる。それで果たして満足に行くであろうか。
例えてみれば、先祖とは木の根ッ子だ。子孫とは枝葉だ。その根が腐ってその樹や枝が育ちますか。これはものの道理だね。この道理の外に人間の道というものがある。人間の道があり、オキテというものがある。それを乱して人間としての秩序が成立つであろうか。
* 西洋文明に酔いしれている日本人…宗教の根本義にまちがいあり *
今日、西洋文明、米国文明に酔いしれているようだから、目覚めてもらうために、次にその一例を上げてみよう。東京に於ける強盗が年間七百件位。アメリカは文明国だから立派な国のように思われるだろうが、そのニューヨークに於ける強盗は八千件位。百十番の電話がかかる件数は、東京で年間六十萬〜八十萬回。ニューヨークで三百萬回。殺人事件は、東京では千七百八十件。ニューヨークでは一萬八千件。こういう事でも次第次第に日本をむしばんで行く。これを知らずに、今の人々はそういう悪の社会を作る事に夢中になり、そして知らず識らずの内に自分の子供達に教へ込んでいる。という事は、本当の人の親ではなく人殺しを教へている悪魔なのだ。その人は必ず地獄です。宇宙に秩序があり、宇宙に憲法があれば、必ずその人は地獄へ墜ちる人なのです。
今日の日本人は皆この悪魔に魅せられて酔いしれている。その原因である宗教の根本義が間違っているからなのだ。と言う事は、立派なケサを着て、世間には立派な地位や名誉を持っていると称して、実は悪魔の堂守りをしている者から大事な大恩ある親先祖の、亦人道からして欠くことのできない大事な親先祖の戒名をもらって、果して、あの世でその戒名が通用するかどうか自らが判断できることでしょう。
* 神社仏閣は悪魔の住家 *
明治神宮も、伊勢の大廟も、その他有名無名の神社仏閣も、そこに神様仏様がお住みになっておられるならば悪魔に焼かれるはずがない。このように神社仏閣が全部悪魔の住家であるという事は、類は類を呼んで焼かすのだね。これ程ハッキリ証拠を出して見せてもまだ目覚めない。
『いかなる智者聖人も……与同罪恐るべし』…ここで言う「いかなる智者聖人も」と言う事は、悪魔の手先を智者聖人と思い込んでいたのだから、その智者聖人もそう思い込んだ者も共に無限地獄に墜ちる事から逃れる事はできないのだ。決してその悪魔に近よるな。「与同罪」…その悪魔と同じ罪を受けるから。
* 本 文 *
釈尊は一切の諸仏、一切の諸神、人天大会、一切衆生の父なり主なり師なり。此の釈尊を殺したらんに、争か諸天善神等も嬉しく思食すべき。今此の国の一切の諸人は、皆釈尊の御敵なり。在家の俗男俗女等よりも、邪智心の法師ならば殊の外の御敵なり。智慧に於ても正智あり邪智あり。智慧ありとも其の邪義には随ふべからず。貴僧高僧には依るべからず。何に賤しき者なりとも、此の経の謂れを知りたらん者をば、生身の如来の如く礼拝供養すべし。是経文なり。
* 法華経の心を知る者を如来の如く…邪智の高僧には依るべからず *
* 御 解 説 *
『釈尊は一切の諸仏、一切の諸神、人天大会、一切衆生の父なリ主なり師なリ……何に賎しき者なリとも、此の経の謂れを知りたらん者をば、生身の如来の如くに礼拝供養すべし。是経文なり』…悪魔の智者聖人に近づき、その者から教えを受ける事は、釈尊の心を殺す事になるものである。縦って、十方の仏様始め諸天善神を喜こばす事にはならない。特に、今日に於ける坊主とか宗教家と言う者は、仏様の敵の中でも大敵となる者である。
何んの地位もなく、世間にも名が通っていないが、法華経十巻の心を知っておられる大導師様を、生き身の「如来」として礼拝
養しなければならない。これは日蓮の言葉でもなく、私の私見でもない。経文の示すところなのだ。* 法華経に敵対の国に飢饉あり *
* 本 文 *
されば伝教大師は、「無智破戒の男女等も此の経を信ぜん者は、小乗二百五十戒の僧の上の座席に居ゑよ、末座にすべからず。況や大乗此経の僧をや」と遊ばされたり。今生身の如来の如く見えたる極楽寺の良観房よりも、此の経を信じたる男女は、座席を高く居えよとこそ候へ。彼の二百五十戒の良観坊も、日蓮に会ひぬれば腹をたて眼を瞋らす、是ただごとにはあらず。智者の身に魔の入りかはればなり。譬へば本性善き人なれども、酒に酔ひぬればあしき心出来して、人の為に悪しきが如し。仏は法華以前の迦葉・舍利弗・目連等をば、是を供養せん者は三悪道に墜つべし。彼等が心は犬野干の心には劣れりと説かせ給ひて候なり。彼の四大声聞等は二百五十戒を持つことは金剛の如く。三千の威儀を具足することは、十五夜の月の如くなりしかども、法華経を持たざる時は、是くの如く仰せられたり。何に況や、それに劣れる今時の者共をや。建長寺・円覚寺の僧共の作法戒文を破る事は、大山のくずれたるが如く、威儀の放埓なることは猿に似たり。是を供養して後世を助からんと思ふは、はかなしはかなし。守護の善神此の国を捨つる事疑ひあることなし。昔釈尊の御前にして、諸天善神・菩薩・声聞、異口同音に誓を立てさせ給ひて、若し法華経の御敵の国あらば、或は六月に霜霰と成りて国を飢饉せさせんと申し、或は小虫と成りて五穀を食み失はんと申し、或は旱魃をなさん。或は大水となりて田園を流さんと申し、或は大風と成りて人民を吹き殺さんと申し、或は悪鬼と成りて悩まさんと、面々に申させ給ひき。今の八幡大菩薩も其の座におはせしなり。争か霊山の起請を破らせ給はん。起請を破らせ給はば、無限地獄は疑ひなき者なり。恐れ給ふべし恐れ給ふべし。
* 法華経を信行する者は上座にすえよ…分営長・法座主はその資格者 *
* 本 文 *
今までは正しく仏の御使出世して此の経を弘めざれば、国主もあながちに御敵にはならせ給はず。但いずれも貴しとのみ思ふ計りなり。今某仏の御使として此の経を弘むるに依りて、上一人より下萬民に至るまで皆謗法と成り畢んぬ。今までは此の国の者どもをば、さりとも法華経の御敵にはなさじと、一子のあやにくの如く、捨てかねておはせども、霊山の起請のおそろしさに、社を焼き払ひて天に上らせ給ひぬ。さはあれども身命を惜しまぬ法華経の行者あれば、其の頭には住むべし。天照大神・八幡大菩薩天に上らせ給はば、其の余の諸神争か社に留まるべき。縦ひ捨てじ思食すとも、霊山の約束のままに某呵責し奉らば、一日もやはかおはすべき。譬へば盗人の候に、知れぬ時はかしこやここに住み候へども、能く案内知りたる者の、是こそ盗人よとののしりどめけば、思ひの外に栖を去るが如く、某にささへられて社をば捨て給ひ畢んぬ。然るに此の国思ひの外に悪鬼神の住家となれり。哀れなり哀れなり。
又一代聖教を弘むる人多くおはせども、是程の大事の法門をば、伝教・天台も未だ仰せられず。其も道理なり、末法の始めの五百年に、上行菩薩の出世ありて、弘め給ふべき法門なるが故なり。相構へて、いかにしても此の度此の経を能く信じて、命終の時千仏の迎ひに預り、霊山浄土に走り詣り、自受法楽すべし。信心弱くして成仏の延びん時、某を恨みさせ給ふな。譬へば病者に良薬を与ふるに、毒を好んで食ひぬれば其の病癒えがたき時、我が失とは思はず、還って医師を恨むるが如くなるべし。
* 青年部はこれだけの気概があるか *
* 御 解 説 *
『されば伝教大師は、「無知破戒の男女等も此の経を信んぜん者は、小乗二百五十戒の僧の上の座席に居ゑよ、末座にすべからず。況や大乗此経の僧をや」』…例えば無智な人間でも、この経を信行する者は、偉い坊主や宗教家達よりも上座にすえよ。決して末座に坐らせるな。まして大衆を導き大衆を指導する者はなおさらの事。我が分営長・法座主はその上座に坐る資格者である。
私はかつて、正義教団発足の式典に招待を受けた。当時は、身延山の関係もあって正義教団から身延の坊主共の招待もした。そんな事情で心が進まないまま、ついおくれて行ったものだから、私の座が末席に取り残されていた。見ると、身延の坊主共が上座に坐っていたものだから、忽(たちま)ちに末座に引き下してしまった。この深い訳合は後日にゆずる。
身延の管長の次席である小松別当等の連中を皆引きずりおろしてしまった。何(ど)うだね、そこにいる青年部の諸君はこれだけの気慨があるかね。何事を成すに於ても、それだけの気慨の無い男が男らしい仕事ができるか。宗教に限らず、ただ慾ばかりかいても駄目だね。すべからく男は、世の中に立っても男らしく。男らしく振舞って行くには、男らしい心の持ち主でなければならない。そういう者にこそ男ぼれというものがするものだ。男ぼれするから銀行でも誰でも金を背負って貸付けようとするのだ。仕事をしてもついて歩いて仕事をやってくれと頼まれる程になって来るものだ。亦、勤めをしてもそのような人は上司から目をかけられて引上げられて行くものだ。そうでない生活は雑魚(ザコ)のような生活でしょう。一山幾らの方ですね。
* 人間に生まれたなら人間らしく…それを成仏という *
一度人間に生まれたならば何れを選ぶか。一山幾らという方なら信心をする必要がないではないか。人間は人間らしく、その人間にふさわしい生活を願う。それを成仏を願うという、成仏を願うという事は、彼の世へ行って楽をするというケチな事を言うのではない。人間に生まれたならば人間らしく、男に生まれたならば男らしく、女に生まれたならば女の中の誰それと言われる。それを成仏というのです。（おわり）
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