* 観普賢院常不軽録学大士・(故)中田旺山 *
私が信仰に入った最初は迷信であり、いわゆる利益本位のお題目でありましたが、この利己主義の信心をひるがへして、懴悔第一主義にふりかえて頂いた御妙判(聖日蓮の御遺文)は孟蘭盆御書でありました。
（註…現在日本で年中行事として行はれる「おぼん」は孟蘭盆会から由来したものであります。）
孟蘭盆御書は、目連の母、青提女が、餓鬼道(むさぼり)から脱れられた伝説によそへて、法華経の真ずいを説き示された御書であります。ことに宇宙の中心が自己にあるという事をハッキリと教へられ、「功徳を回向するを上品とす」とある点を具体的に、且つ最もあきらかにはっきりと事実にもとづいてとかれた非常に大事な法門であります。私は初めこの御書を拝読して、父母に対する孝行の道は、ただ自己の成仏(罪業の懴悔滅罪)にあるのみだという事が分かったと同時に、一切衆生の成仏の秘められた鍵も、亦自己成仏の四字に存する事が分かったのでありました。日蓮上人の孝行観、孝の行、孝の功徳の示唆は開目抄(聖日蓮の五大著述の一部)にあらずして、より多く此の孟蘭盆御書にあると存じます。
* 真の孝行 *
日蓮聖人は開目抄において、孔子、老子の方々を一応賞揚しておられますが、再応これを絶対的に否定せられ、これらの人々はエライ事はエライが過去の世も未来世をもわきまえないもの、凡夫の背を見ず、盲人の前を見ざるが如きものであって、不知恩のものだと責めておられます。要するに観念的な孝行(道徳的・倫理的)は、孝に似て実は不孝であるというのであります。
「父母を養うを下品とす」とありますが、下品中品は上品(品とは前後の位とか位置をいう)と程度の差であるのではなく、絶対的の差であります。上品のみが唯一の真の孝であって、其他は皆不孝であるというのであります。目連尊者が母が食するものも飲むものもなく餓鬼道にさまよっているのを嘆いて食物を投げられた事は下品の孝養であります。けれども、その投げた食物が火となって母の身を焼きさらしたとある事は、如何に小乗的な悟りや、小乗的な孝の結果が小さき孝でなくして、大なる不孝であるかを物語るものであります。
三世をわきまえ、自己の罪の故に父母の罪があるのであるという法界の真理(先祖ぎょう養道)に目覚め、いわゆる宇宙の中心を自己に求め、自己に感じてゆくところの大荘厳懴悔の道(罪業の自覚による懴悔と同時に幸福とその生活環境が新生する道)こそ、唯一絶対なる功徳回向(回向とは親に果たした孝行はそのまま亦自分の功徳となる)の孝があるという事、而して、やがてそれが一切成仏(世界平和)の大功徳であるという点までを徹底せられてあの御妙判となったのであります。目連の父母の成仏は上七代・下七代の父母の成仏、上無量生・下無量生の父母の成仏、一切衆生の成仏であると重ねて説破せられている所を注視せねば成りません。
* 女性の幸福 *
「法華経は内典の孝経なり」という事は、ことに法華経が母を救う〃女人成仏〃の教えであるという事であり、この点が日蓮聖人が最も歓喜踊躍せられていたところであります。孔老の教えはいうに甲斐なく、仏教といえども法華以前のあらゆる経には、皆父を救えども母を救わず独りわが法華経こそ母を救って下さるのだ。「悲母の成仏もあらわれる」と喜んでいられる。一事が万事である。一しずくの味は大海の味である。角あるものはわれその中なるを知るのである。母を残して、女人を残して、成仏の印可を与えている爾前(にぜん)の仏教(法華経以前の仏教)は、桀紂(けっちゅう…夏（か）の桀王と殷（いん）の紂王。ともに中国の暴君。転じて、暴君をいう。)を除外して忠を説いている儒教と撰ぶところのない相対的な無明の教であり、抽象的な観念であると大聖人は悟られたのでありましょう。さればこそ目連の母の成仏は、目連の成仏を前提としているが、目連の母の成仏によって、一切衆生は同時に、直ちに成仏するのである。
* 東方善徳 日本 *
日本国民の精神というても只今のところ観念であります。日本国体といっても只今の所、いまだもって国民の自覚の中のものではありません。宇宙が仏界であるという事と、日本国が真理の中心であるという事と、共にスフィンクス(ギリシア神話の怪物の名)の謎であります。併し天に一仏、地に一王という霊肉一致の世界は、忠孝一本の真理が日本国体の存在によるの外説明され得ないという論理的な検討から、やがて世界人の信念となり、世界の現実となって、躍動し来るであろうと思います。(昭和九年)
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【付 記】
* あなたのまことの大御親 *
南無先祖
養道様はあなたの精神を直くし
あなたの身体を保全し
あなたの運命を開拓し
あなたの経済を富まし
あなたの家庭を幸にし
あなたの国土を発展し
あなたの世界を和合す
兄弟達よ！私達の一切の祈りと願いが叶う、まことの大御親の仕立てられた大宝船に、さあ早く手に手を取りあって乗りましょう。
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