およそ私達人間が此の地球上に住むようになってから以来(このかた)、幾十百億年を経過したことでございましょう。科学上では四十億年とか五十億年とか申すようですけれども、仏さまの経典には御承知のように、「無量百千萬億載阿僧祇劫」と書いておりますが、此の意味はただの四十億五十億年などと言うことではなく、いわば始めもなく従って終わりもない、つまり無限ということでございます。
先徳の方々にはこれを「輪の端なきが如し」ともたとえられておりますが、我等はこれから後も幾十百億年を生まれては死に死んでは生まれて来ることでございましょう。そして、それは広い宇宙のなかでも此の娑婆世界、即ち私達の住むこの地球の上に。
そしてこれは各自分自分の事でございます。決して他人さまのことではないのでございます。勿論なおさらの事、お釈迦様のことだけではないのです。これは大変な点でございます。また私達が生まれては死に、死んでは生まれて来ると云うことは丁度ねては起き、おきてはまた寝につくのと、少しも変わることはないのです。
この様にして地上に生をいとなむ私達は、他のすべての生物つまり痛さ、かゆさを感ずることの出来る情のあるものも、またそういう感じを現わすことの出来ない、いわゆる非情のものなど一切の犠牲の上に、生きていておりましょう。併しながら鼠(ねずみ)に生まれては猫に喰われ、猫に生まれては虎に喰われることは世のつね、世のさだめごとでありましょうけれども、生あるものは如何なるものでもその生命を惜しむのも、また世の常であって、生きとし生けるものの世界にこれは変わりはないのでありましょう。
* 他の生物の犠牲の上にたつ万物の霊長 *
その時、私達人間はどうでありましょうか。
人間は万物の霊長と申します。人間はたしかに万物の霊長でなくてはなりますまい。この人間の私達は、此の地上を幾十百億度生まれては死に、死んでは生まれ来て、その度ごとに悉く他の生物の犠牲の上にただただ自己の享楽のみをむさぼって今日にいたっておるのが凡その事実でございましょう。
仏さまはこれを貪欲と教えさとしておるのでございますが、かりに人間以外の他の生物とのことは此の場合しばらくおくとしても、人間と人間との間に於てもただ自己満足のためにのみ、自己の権勢や自己享楽のためにのみ、私達は世々に生と死とを重ねてまいりました。このためにはなはだしきは、肉身の間に於てさえ、或る面から云えば、肉身であればあるほどに、猶更に残忍の度合がひどくなっているのであります過去のわが皇室に於ける南北朝の戦の如く源氏(清和天皇)と平家(桓武天皇)の戦の如く、また清盛も頼朝も尊氏も秀吉も、いづれも自己の権勢保持のためにその肉身をさえ敢えて殺りくしている事は、私達の歴史がこれを示しておる通りです。
* 仏道をならうとは自己をならうなり…自己を忘るるなり *
これが万物の霊長たる人間の行為として神仏がお認めになられるでありましょうか、而してこれは遠い昔の我々の祖先の所業であって、現在の我れらの関知しないことと思ってはならないのであります。現在は国法に依って人身や人権が或る程度保証されてはおりますけれども、その反面に我々の、日々の生活の上におけるいろいろの厳しい程の出来事は一体なにに起因し何を物語るのであるかを思い見ねばなりません。ここのところを
「仏道をならうとは自己をならうなり、自己をならうとは自己を忘るるなり」とも「自己を運びて万法を修証するを迷とす、万法すすみて自己を修証するはさとりなり」ともいうのであります。
三十六年十一月号の大法輪に京都大学の総長(医学博士解剖学)がある大学に於ける講演の速記がのってありましたが…、それによると赤児が母のたい内にいる十月の間に幾億万年前よりの我々の幾億万の祖先がいろいろと歩いた道を此の一人の赤児がたい内で全部いろいろのすがたに歩いて見せるそうです。現代に至っては宗教家でない科学者がこういうことを公の場所でその研究の結果を発表するようになってまいりました。そうすると此の産まれ出た赤児の其の後の人生経路はいわずと知れたことでございましょう。即ち産まれ出た此の一人の赤児の人生経路は、その児の祖先の歩いた道を善きにつけ悪しきにつけ、彼が重ねて歩くということがうなづけられるであろうと思うのであります(このことについては次の機会に詳説いたします)。はたしてそうであれば我々の祖先のことであって自己の関知しないこととすましていられぬことでありましょう。
因果の法は、響の如く、蔭の如く、夜字を書いて明かりは消せども字は残るが如くだと申されておりますが、以上は我々人間の間の因果の法の一端であります。
* 宇宙生命は一実である *
この宇宙は生きた生命であります。さればこそ我々も生きていられるわけです。丁度母に生命があればこそたい内の児もまた生命が有りうる様に。そしてこの宇宙の有りとあらゆるものは単独に生存はしていません。いづれも皆な相関関係に在って皆な相つながり合い、相たすけ合って生存をしているわけでございます。去る十二月二十七日の読売新聞の編集手帳欄の記事に「すずめは害鳥とあって中共では人海作戦をもってすずめを一羽のこらず殺してしまったが、中共の三年つづきの大凶作はどうやらこのすずめ退治のためらしい。すずめ退治を提案した中央の幹部は左遷された」とありました。これを私は大変きょう味深く読みました。
* 日本の天然の大資源…漁業…不漁は自己主義のため *
次に今丁度お正月ですが、数の子が百グラム何百円とか何千円とかテレビもラジオも報じております。この高値は業者の圧力によるものだと同じく読売新聞最近の読者欄に書いてあります。今日本ではニシンは一万トンしかとれない。ノルウェーでは百万トンもとれて而も彼等は食用にしないそうです。これを輸入することを業者が反対する。ニシン漁業者のみの利益のために。ノルウェーからでもニシンの輸入が出来れば、一般市民の正月の楽しい食膳がにぎやかであったろうにと思います。
もっとも漁がないのはニシンにかぎりませんが、その漁のないのは日本近海漁業ばかりではなく、対島海峡も、カムチャッカ、オホーツク海、千島等々、皆しめ出しを喰っておる。
私達の大導師常不軽無学大師は、わが日本は資本を投下しないでも天然の大資源を持っている。それは漁業であるとよく申されたそうです。全くその通りだと思います。サケの輸出だけで、フィリッピンの賠償が払えるとの事ですが、その魚族が、他国から干渉をうけずにすむ筈のニシンの諸君さえ皆日本人にはとられたくないのか、ノルウェーくんだりまではるばる逃げて行ってしまう始末です。
遠い遠いよその国までご苦労様なことですが、若しも私がニシンであったなら自己主義一本やり的な、温みのない情のない日本人共の手にとられて死にたくはないから、他に死場所をもとめるであろうと私は思うのであります。これは笑話ではありません。真実なのです。甚深甚深とも大慈悲深義とも申しますし、一念三千の法門とも、三秘の法門とも専門語で申します。両三日前に「茶の間の科学」というテレビの時間を見ましたが、この難解の専門語も外ならぬ私達の日常の生活をはなれてのものは一つもないのであります。
* 生活の中に仏法がある *
ですから仏法とか仏道とかの中より私達の生活がでてくるのではなく、日々の私達の生活の中にこそ仏法があるのでございます。さればこそ仏教もキリストもこの地上の人となるのであります。言いかえますと、我達が神にまいるのでなく、神が仏さまが私達の所へまいりたもうのであります。そして私達は神が仏が心よく私達の所へお出でられて供に倶に楽しく美しき地上生活をいとなむ資格を作るだけの事であります。これは勿論のことでしょう。
このことを作仏とも成仏とも信仰ともほんとうは言うのであります。
南無先祖
養道 南無先祖養道 南無先祖養道* 深く因果を信じ、一実の道を信じ、仏は滅したまわずと知るべし *
尚同封の「観普賢院常不軽録学大師故中田旺山先生」御遺文中の文句即ち、萬法に証せらるるとか、表門でなく裏門から参入するとか云々は、ここの意味に外ならないのであります。
次にこの場合の結論をかいつまんで急ぎましょう。
地上界の生命を母体として出現するものと天上界の生命を母体として来下するもの…
この二つの事実が法華経の最重要な点でございます。詳Lくは来る一月七日の初礼拝日に解説をいたしますからお差くりお来参下さい。その場合、私達同信は、この地上界(娑婆世界)を母体として生命をもつものでございます。つまりこの大宇宙の中の各世界のうち私達は娑婆世界に配属されたもの、この娑婆世界に有緑のものであります。例えば此の地球上百幾つかの国の中で私達は日本国に自然に配属されて、つまり生まれ来ていると同じです。
そして地上界は受ける立場であり、天上界は授ける立場であります。これは大自然の法であります(よく専門語で自然法爾などと申します)。
「我が此の土は安穏にして、天人常に充満せり、園林諸の堂閣、種々の宝をもって荘厳し、宝樹花果多くして、衆生の遊楽する所なり（この地球上は衆生の遊楽所であります）。諸天天鼓を撃って、常に諸の伎楽を作し、まんだ羅華をふらして、仏及び大衆に散ず」。而して受ける者は必ず他の生物の犠牲の上に立つのです。ここに感謝という自然法界の交情があるのです。その時私達は何を感じ如何に謝して、而して無量百千万億度生まれては死し、死しては生まれて来ているのでありましょう。再び申しますが、大宇宙間すべてのものは皆相関関係であり、皆生命あるものであり、人間のみが生命があるのではない事は今日の科学の世界においても認めます。生命は情、非情共に有りましょう。鶏を食用に首をしめます。悲壮な鳴声ですよ。しかしながら、彼は斯く生まれ来て居りましょう。されど万物の霊長は彼の犠牲に於て我を養うことを感じねばならないでしょう。而して彼の生命の多幸を謝し祈るのでなくてはならないでしょう。これはほんの一例の内のほんの一例でしょう。そして斯の如く私達は多くの罪を犯して来ております。「寿量品には悪業の因縁を以っての故に」とありましょう。而も地上の私達は根本的に創生的に「功徳」を享有し、そして同時に罪悪をももって居ります。いわば派生的に出来する罪もさることながら、根本的に何時つくるところの罪でなく、自然にそなえもつ罪を謝せねばならないのです。例えば私達はまい日食べて生きます。同時に排せつして生命が保てます。自然は大も小も最大も極小も一つの原理の中に存在します。生命の世界は一つであるからです。普賢行法経に「深く困果を信じ、一実の道を信じて、仏は減したまわずと知るべし」とありましょう。この場合の仏という字は生命と読むべきでしょう。
* 功徳(幸福)の第一要素は懴悔(さんげ) *
健康の第一要素は排せつ(便通)である如く、功徳(幸福)の第一要素は懴悔(さんげ)であります。懴悔に大小あり深浅あり高下あり、故に懴悔とはいわゆるざんげではありません。いつ如何様につくった罪とがを反省してゆく事も勿論大切です。しかしながら、私達は根本的にまい日便通する如く、まい日懴悔することは自然法則でありましょう。その時願わなくても幸福があることにこの地上のものには、そう出来てしまってあるのです。これが仏遁です。そしてこれが法華経なのです。法華経って難解難入では今日はないのです。茶の間の科学です。南無妙法れん華経はその理論であり(故に難解難入です)、南無先祖
養道はそれを生活化したものです。* さんげすれば願わなくても幸福がある…これが仏道です *
釈尊より大事な日れんと申されました。今日は日れんより大事な私達です。日れんの教学(理論)と我等の立場とはこの事に外なりません。地涌の菩薩とは私達の事でしかありません。日れんがなくば、釈尊は虚妄の人であったであろうと日れん様は申して居ります。それと同じく私達がなくば、この先祖
養道という大荘厳さん悔の大法がなければ、日れん様も虚妄、釈迦も虚妄、天台伝教、栄西、道元、弘法、法然、親らん、キリスト、マホメット等々みな無かりし人も同様であります。 あなかしこ あなかしこ二伸 一月七日にくわしく解説します。是非おいで下さい。印刷機購入には多大の御助力下され、厚く感謝しております。この本は全部同信の素人の手製です。だんだんよくなりましょう。私は本年度は街頭にも進出します。今私は子供の様によろこんで居ります。合掌
一月七日
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